大学に入ったら、ぜひ行きたいと思っていた場所がありました。演劇ではなく、音楽の場所です。
新宿にPIT INNという素晴らしいライブハウスがあると聞き、ある日、週刊誌「ぴあ」でスケジュールをチェックしました。懐かしいですね。
そこにはたくさんのミュージシャンやバンドの名前がずらりと並んでいましたが、まだ若かりし私が知っていたのは山下洋輔さんだけでした。
山下さんが素晴らしいのはすでに知っているので、新しい出会いをしたい、と思いながら、スケジュールを凝視、まったくもってその名前の響きと楽器編成だけで、あるバンドを観に行くことしました。
それは、菊地成孔さん率いる「ティポグラフィカ」でした。

これがもう、言わずもがなですが大当たりで、自分の冴えた直感に感謝したほどです(笑)。すっかり気に入って、ティポを観にたびたび新ピに通いました。
ところで大学に入ってから、お箏のお稽古には徐々に行かなくなりました。長年とてもかわいがってくれた先生とはフェードアウトしたままお別れとなってしまったことを、いまとても後悔しています。
演劇を始めた当初は、私も俳優修行をしていました。高校時代から憧れていた世界を体験できるようになり、心もからだも喜びとパワーに満ちたなか、あめんぼあかいなの発声練習やら、走ったり柔軟したりの肉練やらに励んだものです。
ところがいざ、俳優修行をしてみると、本来は記憶する行為が得意なはずなのに、なぜかセリフを覚えるのは苦手だったり、舞台袖で役者として控えているときの緊張感がどうもからだに合わなかったり、舞台で演じていても自分の下手な演技をリアルタイムで客観視してしまったり、さてこんな私を見たいと思う人はいるのだろうかという疑問が常についてまわりました。
そしてあるとき、欠員していた音響スタッフになってみたのです。こちらはとても性に合っていて、舞台における音楽(音源だけでしたが)のチカラの大きさをずいぶんと実感しました。
音楽ひとつで、はもちろんのこと、フェーダーの按配ひとつで、物語を色付けたり、世界をひっくり返したりさえできます。
そして私は、学生演劇の現場だけでなく、プロの現場も体験させてもらいました。
私が最も素晴らしいと思ったのは、鈴木勝秀さんのZAZOUS THEATER(ザズゥシアター)で、そこではいまや日本を代表する俳優になられた松重豊さんや勝村政信さんが活躍していました。
ほんの少しお手伝いをさせて頂いただけでも、プロの現場でのものづくりにふれることができたのは、20代そこそこの若者には大きな経験でした。
ちなみにZAZOUSの舞台は、音楽が実に素晴らしく、使われる音源だけでなく、横川理彦さんが生演奏されたりと、音楽の役割がかなり活かされた世界だったように思います。
大学3年生になった私は、卒業後の進路を考えていました。当時はほんとうに気楽に生きていける時代で、フリーターが輝いていたくらいですから(笑)、私も就職には興味がなく、かといって演劇の道に行くにも、自分の未熟な才能を思えば、踏み込めずにいました。
その年の年末、ZAZOUS THEATERが年明けに予定している公演に、稽古から本番までスタッフとして関わってみないかとお話を頂きました。
大学3年生、時間はたっぷりあります。なによりZAZOUSの舞台ならぜひ、と二つ返事で引き受けることにしました。
その公演は音楽劇で、出演者はバンドのミュージシャンたち、近々彼らのコンサートがあるからごあいさつに、と下北沢の会場へ行きました。そこにいたのが、梅津和時さん率いる総勢10数名ものベツニナンモクレズマーでした。

クレズマー音楽は初めて聴くはずなのに、ずいぶんと久しぶりに聴いたような、さらには、やっと家に帰ってきたかのような、驚くほど強烈な懐かしさにおそわれたものです。
私とクレズマー音楽との初めての出会いでした。
そしてこの日は、初めて巻上公一さんに出会った日でもあります。巻上さんとの出会い、そしてクレズマーとの出会いは、私の音楽人生で実に大きな節目となりました。
こんな魅力的な音楽で舞台が創られるなんて、それにどっぷり関われるなんて、ほんとうに光栄なお役目を頂いたと感激して、自分史上最高にわくわくしながら新年を迎えました。1995年です。
きょうの東京は雪に見舞われました。人間が出かけるにあたって、雪は厄介に感じますし、降雪量によっては命を脅かしもします。
でも真っ白な雪が風景を美しく変えたり、春には雪解けの水が土を潤してくれると思うと、なにごともそれ自体の存在そのものに初めから「良い」「悪い」の定義などなく、単にそれを受け止める私たちの勝手なジャッジなのだと感じます。
きょう綴った出会いは、私にとって最高の出会いばかりでしたが、親や家族にとっては望ましくない出会いばかりだったのだろうと、あらためて思い返しています(苦笑)。
物語は次につづきます。
皆さんにも、ご自分こそが喜べる素敵な出会いがたくさんありますように✨
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